卒業 |
ガヤガヤとした話し声にかき消される式次第の一番上に記されたシベリウスのフィンランディアの演奏。
一人で座るパイプ椅子は冷たい。
入学式、成人式、内定式。
思えば節目節目でこういうガヤガヤと出会い、そのたびに嫌気がした。
こいつらマジで勘弁してくれ、と。
自分対やつら、なんていうわかりやすい対立の構図を作り出していい子であろうとした。
式が進んでもやまぬガヤガヤとした声、かき消される祝辞や卒業生の答辞。
「出会いこそが何よりの財産」
そんな常套句が聞こえた気がしたが、都合よくガヤガヤが消し去ってくれた。
一度も歌ったことのない校歌が流れていく。
誰かを批判して悦に浸っても、パイプ椅子の冷たさだけが残った。
これから身を預ける社会はガヤガヤの塊なのかもしれないな。
ダラダラと退場する数多の背中に降り注ぐ壮大な奏楽。
開かれるホールの扉。
ベタに拳を握って、覚悟を決めた。
一層大きくなったガヤガヤに身を委ねる。
構図の外へと飛び出していく。