誰かが誰かの悪口を言う、けれど言われている人はそう遠くない距離にいる。
ドラマやコントでよくあるやつだ。
そんなとき私は悪口に乗ったことにならぬよう、かつ話し手も無視しない微妙な温度のリアクションを返す。
間に挟まれた私の気遣いよ。
あるいは、レストランで近くの席に三枚目の俳優そっくりな人を見かけたとき、連れが言う。
「あの人、あのドラマに出てる○○に似てない?」
(お前、それは俺も思ったけどけどその音量は危ないぞ…!
イケメン俳優ならまだしも…!)
仕方なく聞こえてるんだか聞こえてないんだかわからない、曖昧な頷きでお冷やに手を伸ばす。
(えっ、何、あの人に聞かれてもいい話題として話してるの?
確かに聞かれてめちゃめちゃまずいってわけではないだろうけど…)
お冷やを手にした私の葛藤よ。
状況は違えど、その手の振りは爆弾なのだ。
イエスといえば荷担になる。
悪者になりたくないのだ、なるかどうかはわからないが。
かといって、アワアワしながら
「聞こえちゃうよ」
と指摘するその言葉自体が相手に聞かれてはいけない気がして、私は言葉をもがれる。
これは単に私が小心者にできているがゆえである。
実際に私に向けられた声が第三の人物に聞こえているかはわからない。
だから聞こえてないものとして話す選択肢はある。
あるいは、聞かれたからってなんのその、と覚悟を持って返答する選択肢もある。
けれど私にそんな度胸はないのだ。
ふいに投げられた爆弾。
積極的な自爆か、消極的な誤爆か。
どちらも選べない小心者の私は、爆弾を抱えたまま聞こえないフリなんてしながらファジーな逃げ道を探すほかない。