もしおじいちゃんとおばあちゃんが出会っていなければ今の自分はなかったのだから、今ある自分はすでに何者かではあるはずだ。
そんな安易な解釈で救われた気分になって山を駆け下りた。
もしおじいちゃんとおばあちゃんが出会っていなくとも、それはそれでこの世界は廻っていたのではないか。
今の自分でなかったところでそのことを認識できる自分すら存在していないのだから、とりわけ何の問題もなく時間は流れていたはずだ。
渇いた風に学ランが少しはためく。
第一ボタンをきっちりしめる。
文系学部が生んだサラリーマンは、ため息をつきながらそれっぽく缶コーヒー片手に街を見下ろす。
代えの利かない仕事をしたいとは思うけれど、自分にしかできない仕事などあるのだろうか。
自分がいなくなったところで誰かが穴を埋め、この世界は廻っていくのだ。
おじいちゃんとおばあちゃんが出会っていなければ。
代えの利く仕事が自分に巡ってきたということ。
デスクに積まれた書類を思い出して、空き缶を捨てた。

